目下ヒダリ向き

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長野で起きた介護事故の判決と介護事情を考えてみた

桜がもろもろ咲き始めました。ヒダリです。

家の目の前ににはちょっとした公園があり、春になると桜の木から花弁がわらわら飛び込んできます。綺麗なんですけど掃除が……

 

先日、長野県の特養で起こった介護事故に対して行われていた裁判の判決が出ました。こちらにわかりやすい記事があったのでリンクを貼らせていただきます。

www.chunichi.co.jp

要点をまとめてみます。

 

1.入居者女性は嚥下(えんげ・飲み込む力)障害は無く、食事形態を常食からゼリーへ変更していたのは嘔吐の対策の為であり窒息予防ではない。また、特に要注意が必要な方ではなかった

2.上記の変更点は看護師が把握できる環境ではなかった

3.入居者女性には食べ物を口腔内へ詰め込む行為が多々見られた

4.おやつとして配膳されたドーナツを喉へ詰まらせ意識消失。そのまま意識は戻ることなく約一か月後に亡くなられる

 

詳しい時系列が引用先の下の方に載っています。この事件の論点は「低酸素脳症を引き起こす原因がドーナッツを詰まらせた事であり、それを防止するべき注意を怠った」点ですが、ではそれを完璧に避ける事は出来たのでしょうか。嚥下障害もなく、要注意も不要で自力摂取が可能なのであれば、ある程度目の入る位置にいつつ、他の要注意が必要な利用者のケアへ回るのが相当です。更にこの施設では、出来るだけ食事を流動食にはしたくないという考えがあるとの事。食に関しては特に思いを巡らせていたと思います。

私はこの施設を拝見したことはないので、その時の状況や日頃の様子を知る事は出来ません。ですが、この事件に関して沢山の動きがあり、介護現場の萎縮を招くとして医療・福祉関係者45万人の署名が集まったことを考えても、この看護師の方が適当なケアをしていたとは思えないのです。職員の中には、確かに適当な考えをして適当なケアしかしない人もいます。でもこのケースは違うんじゃないかな。

 

介護事故による死亡で裁判が行われた例を調べてみたのですが、まぁ出るわ出るわ、具体的に何件、と挙げてみようと思いましたが、数が多すぎて断念しました。介護事故は色々な原因から起こります。それこそバタフライエフェクトのように、どんな小さな事が原因になるかわかりません。ありがたい事にご家族様の中には、「事故が起こらないわけないから」という理解を示してくださる方もいらっしゃいます。ですがその一方で、薬や寝たきりを極端に敵視するご家族もいらっしゃるのです。

転倒が多く、認知症の影響で夜間も不眠、昼も夜も歩き続けるから体にも負担がかかりまた転倒に繋がる。こういった利用者も沢山いらっしゃいます。夜間の睡眠がとれるよう、様子を見ながら少しずつ眠剤を処方したりしますが、それすらも拒否されるご家族様もいる。ここは薬を使わせたがるから他の施設に行こう、と移った先で転倒転落のオンパレード。この場合、どうすれば防ぐことが出来たのでしょう。時間をかけてご家族様と話し合っても、理解を得られるとは限りません。

このように、介護事故は「誰が、どこが悪い」と断言するのはとても難しい、デリケートな問題です。我々介護職員には、もちろん事故を防止する義務があります。毎日人がいない中でも利用者の状態を把握して、上や看護部へ報告して、情報の共有が重要になります。なので、私はその情報共有が全くできない施設に当たり、どうしても改善が見られない時は、他の施設へ移りました。

介護を受ける・提供する上で重要なのは、「何を優先したいか」だと思っています。

ご家族様とご本人が、「歩きたい」のか「徹底的に事故を防ぎたい」のか「好きなものをいくらでも食べさせてやりたい」のかをきちんと話し合い、そこに付随する問題をどうするか。歩く為にはある程度の転倒リスクは仕方ないと考えるのか、徹底的に事故を防ぐならばご本人の意思をある程度抑え込むのか、好きなものを食べるならば誤嚥の危険を承知しておくのか。そのあたりのすり合わせをきちんとしたい所です。

 

あまり思い出したくない過去ですが、実は私自身も二件ほど介護事故を起こしています。死亡事故ではないので重さが違うとは思いますが、介護業界に入ったばかりの頃、もう10年近く前のまだド新人だった時代です。

お一人は車いすからの転落で額のコブ、もうお一人は骨折してしまっていました。骨折の時には私は真っ青になって、クビも覚悟しました。迷惑をかけたと他の人皆に謝って回り、診断結果が出る予定の休日に看護科長へ電話して経過を聞きました。今思い返しても胃が締め付けられます。原因はどちらも時間のなさと、一人それを煽るおばさまがいたので余計に焦ってしまった事です。人のせいにしているわけではなく、遡った一番最初にあったのが「焦り」です。

私一人の首一本で骨がくっつくわけでもないと分かっていてもつぶれそうになった私に、科長や現場の皆が「いずれ起こる事だった、それがたまたま貴女だっただけの話だから、貴女に出来るのはそれを今後どう活かすかと、どう下の世代に伝えていくかだ」と言ってもらえました。介護業界大先輩の母にも同じことを言われました。

今現在、介護の事故や虐待のニュースが増え続けています。そのニュースを見たうえで、犯人探しやレッテルを張るのではなく、原因と対応策をいかにしていくかを相談するのが、介護界を存続させていく重要な事ではないでしょうか。

 

思いのまま打ったのでボロボロですが、誰も介護のなり手がいない、介護業界が全滅、なんて事にはならないことを祈っています。